東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)148号 判決
一、原告の主張など弁論の全趣旨によれば、本願発明の新規性は、順次方式の自動工具交換装置において最初の工具を自動的に識別選択するよう構成されている点にあり、その自動識別選択は最初の工具につけたコード識別手段とフレーム上のコード応答手段によつて行われることを要件としており、結局争点はその構成の進歩性の有無に帰するものといえよう。
二、ところで、第一引用例は、順次方式の自動工具交換装置であつて、あらかじめ定められた加工順序に従つて作業員により一連の工具をマガジン中に収納し、機械の運転により自動的に工具を順次交換して一連の加工が行われるようにしているものであること、このような順序方式の自動工具交換においては加工サイクルの全工程の開始時には何らかの手段で最初の工具を選択しなければならず、そして一本の工具を最初の工具として特定するならば他の工具の識別が不要となることが自明の事柄に属することは、いずれも当事者間に争いがない。また、第一引用例における最初の工具の識別選択が作業員の手動によつて行われる点も当事者間に争いのないところであるが、成立に争いのない甲第四号証(第一引用例)および第一引用例の内容について記載されているものと認められる成立に争いのない乙第一号証(株式会社機械資料調査会発行「マシニスト」一九六一年七月号)によれば、作業員の目視・操作による最初の工具の識別選択は第一回目の加工サイクルの開始時だけで、第二回目以降の加工サイクル開始時には磁気テープの指令により最初の工具が自動的に最初の交換準備位置にもたらされるようになつており、手動による特定の繰返しを不要としていることが認められる。
さて、工具の自動識別の点について第二引用例をみると、第二引用例は、ランダム方式の自動工具交換装置であつて、全工具につけられたコード識別手段とフレーム上のコード応答手段によつて全工具を対象として工具の識別選択を自動的に行うように構成されていることは、当事者間に争いがない。そして成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)および自動工具交換装置におけるランダム方式の目的・性質から検討すると、第二引用例は、マガジン中に工具が順序不同に収納されていたり、あるいは一つの加工サイクル中において同一の工具を再度使用するなどして工具の収納順序が変つてきても常に容易に加工に必要な工具を識別選択して複雑なプログラムなしにできるよう、工具につけたコード識別手段とフレーム上のコード応答手段という機構によつてこれを自動化したものであつて、随時任意の工具したがつて常に全工具を識別選択の対象としなければならないランダム方式の故に全工具にコード識別手動を施しているが、工具の識別選択を自動化しようとする目的またこれを工具につけたコード識別手段とフレーム上のコード応答手段とによつて行う構成においては本願発明のそれと軌を一にする。そしてランダム方式の工具識別選択にも、当然各加工サイクルにおける最初の工具の特定、すなわちその識別選択は含まれているものであるから、第二引用例における工具の識別選択には、所望の工具の識別選択とともに、その一つとして加工サイクルの最初の工具の選択識別の手段が具体的に示されているものといえる。しかも各引用例および本願発明とがいずれも自動工具交換装置として同一技術分野に属することは当事者間に争いがないところである。したがつて、第一引用例のような順次方式において最初の工具の識別選択を自動化するために、ランダム方式の第二引用例に示されている最初の工具の識別選択を工具側のコード識別手段とフレーム上のコード応答手段によつて自動化する技術を転用して本願発明のように構成することは、第二引用例における最初の工具以外のコード識別手段を不要なものとして省略し、それに従い識別応答の内容が単一化されるだけであつて、何ら技術上の困難性はなく、容易に応用できるものと認められる。
三、本願発明により順次方式の自動工具交換装置における最初の工具の識別選択を自動化したことによりそのためのプログラムを不要にし、正確円滑に加工サイクルの繰返しができる作用効果については、被告も明かに争わないところであるが、引用例との比較について成立に争いのない甲第三号証(本願明細書)、同第四号証(第一引用例)によつて検討するとつぎのとおりである。
同種順次方式の自動工具交換装置として直接比較の対象とすべき第一引用例をみると、作業開始前に加工順に工具をマガジンに配列するのは本願発明も第一引用例も同じく作業員の手動によるものである点当事者間に争いのない事実を考慮に入れると、その収納の最後のホルダに入れられた工具の次の工具が最初の工具であることは比較的容易に識別できる筈である。すなわち、マガジン中の工具ホルダの数より工具の数が少なければ最後の工具と最初の工具との間に空のホルダができるので、一見して最初の工具の識別は容易であり、またホルダの数と工具との数が同じであれば、最初の工具に適宜目印を施すなどの手動の範囲内での工夫は十分可能であるから、その識別が困難なものとまでは考えられない。しかしながら本願発明のように自動化したものに比べれば、複数台操作の場合などにおいて作業員の熟練度如何によつては誤動作の恐れがないとはいえない。なお前記認定のように第二回目以降の加工サイクル開始時における最初の工具の識別選択は磁気テープの指令によつて行つており、その正確性において本願発明のそれと変るところはないし、その手段としても自動工具交換装置に当然必要な指令テープのプログラムの附加にすぎないので、本願発明との間にさしたる違いがあるとまではいえない。
そうして、その最初の工具の識別選択を工具につけたコード識別手段とフレーム上のコード応答手段によつて自動化する技術はすでに第二引用例に示され、これを第一引用例に転用することは前記認定のように容易である。またその転用によつて最初の工具の識別選択を全加工サイクルを通じて機構的に自動化し、第一回目の加工サイクル開始に当つての目視・手動の識別選択、すなわち空きホルダないし目印などによるそれを不要にし、第二回目以降の加工サイクルにおける最初の工具を間接的に識別するプログラムを除去し、常に誤動作の恐れなく円滑にし、未熟練者による複数台の操作を可能にする程度の効果は、前記第二引用例における自動化機構のもつ効果から当然予想できる範囲のものといわざるを得ない。
なお原告は第二引用例との全体的な効果の対比を主張するけれども、いずれも順次方式とランダム方式との性質、応用の分野の違いからくる当然の差異であつて、本願発明の作用効果の顕著さを証するものとはいえない。第二引用例は、全工具を常に識別選択の対象とするランダム方式の故に、全工具に各別のコード識別手段を要し、また工具識別データ処理および指令との照合を行うための機構が、同一加工サイクルの繰返しのため最初の工具の識別しか必要でない本願発明に比してそれだけ複数になるに過ぎない。
四、そうすると、本願発明が各引用例から容易に発明することができたものとしてその進歩性を否定した審決の判断には誤りはないものといわなければならない。
よつて、原告の本訴請求は理由がないから棄却する。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
フレームと、そのフレームによつて担持される工具受入れスピンドルと、そのスピンドルから離れた位置で担持され、複数個の相互に離れている工具受入れ貯蔵ソケツトを具えていて選択的に運動できる工具貯蔵マガジンと、予め選定されたソケツトを前記工具受入れスピンドルからは離れた位置にある工具交換準備位置まで選択的に運動させるように前記マガジンの位置決めをするために連結された動力駆動手段とを有する工作機械であつて、前記マガジン中でそれぞれが使用される順序に位置決めされて前記ソケツト中の選択された相互に隣接するソケツトによつて担持される一群の工具を含んでいて、かつこの一連の工具群のうちの最初の工具に結合されたコード識別手段をそなえる割出し制御系と、前記マガジンが動力駆動されている間最初の工具により示される前記コード識別手段により作動されるに適した位置で前記フレーム上に担持され、その作動時にはマガジンの運動を停止させてコード識別された最初の工具を工具交換準備位置に位置づけるために前記動力駆動手段を停止させるコード応答手段と、コード識別された最初の工具に引続く各工具を順次的に工具交換準備位置に位置づけするためマガジンを割出的に前進させるよう動力駆動手段を選択的に制御するために連結された割出制御手段とを有し、それによつて協動する動力駆動の工具交換手段が、そのとき前記スピンドル中にある工具を前記マガジンの運動により工具交換準備位置に引続いて前進させられた次に必要な工具と交換するよう選択的に作動できるようになつている工作機械